保険を検討する方・保険代理店の方へ
2025.11.25(更新)
2025年8月28日施行の「保険会社向けの総合的な監督指針」の改正への対応
(一財)保険代理店サービス品質管理機構 監事
認定経営革新等支援機関
のぞみ総合法律事務所
パートナー弁護士 吉田 桂公
MBA(経営修士)
CIA(公認内部監査人)
CFE(公認不正検査士)
1 はじめに
2025年8月28日に、以下の内容の「保険会社向けの総合的な監督指針」(以下「監督指針」といいます。)の改正に係るパブリックコメント結果(以下「パブコメ結果」といいます。)が公表されました。
https://www.fsa.go.jp/news/r7/hoken/20250828/20250828.html
| ①保険会社による保険代理店に対する指導等の実効性の確保 ②保険代理店等に対する過度な便宜供与の防止 ③保険代理店に対する不適切な出向の防止 ④代理店手数料の算出方法適正化 ⑤顧客等に関する情報管理態勢の整備 ⑥政策保有株式の縮減 ⑦仲立人の媒介手数料の受領方法の見直し |
今回から、この改正監督指針を踏まえた実務上の留意点について、解説します。
2 保険会社による保険代理店に対する指導等の実効性の確保について
(1)今回の改正で、以下の規定が追加・改正されました。
| Ⅱ-4-2-1(4) 保険会社においては、営業面への影響の大きさにかかわらず、保険代理店における体制整備や保険募集等の適切性について、日常的な教育・管理・指導に加え、代理店監査等を通じて検証し、課題等が認められた場合には期限を定めて改善を求めるなど、保険代理店に対する指導等が適切に行われるよう、その実効性を十分に確保しているか。 |
| Ⅱ-4-2-1(4)③ウ 監査等の手法として、保険代理店による自己点検のみに依拠することなく、無予告での訪問による監査等を実施できる態勢を整備しているか。 |
| Ⅱ-4-2-1(5) 保険会社による特定保険募集人に対する指導等の状況については、保険会社に対する深度あるヒアリング等のオフサイト・モニタリングを行うことや、必要に応じて法第128条に基づく報告を求めること、法第129条に基づく立入検査の実施を通じて把握することとする。その上で、重大な問題があると認められる場合には、法第132条に基づき行政処分を行うものとする。 |
(2)「保険会社」が対象
上記規定は、「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」報告書の「損害保険会社においては、保険代理店における保険募集の適切性について、代理店監査等を通じて検証し、必要に応じて改善を求めるなど、保険代理店の規模やそれに基づく保険会社の営業面への影響の大きさにかかわらず保険代理店に対する指導等が適切に行われるよう、保険募集管理態勢を再構築し、その実効性を確保するべきである。」との記載を踏まえたものと考えられますが、監督指針では、「保険会社においては」「保険会社による」となっており、損害保険会社だけでなく生命保険会社も対象となります。
(3)「営業面への影響の大きさにかかわらず」
「営業面への影響の大きさにかかわらず」との点について、金融庁は、「大規模な保険代理店との関係悪化による営業面への影響を懸念することなく、規模の大小を問わず、すべての保険代理店に対して、保険会社がリスクベ-スで適切な教育・管理・指導等を行うことを求めている」との見解を示し、「リスクの評価に当たっては、苦情や不祥事件等の発生状況に加えて、保険代理店の事業規模や業務特性に照らして生じ得る各種リスクを多面的に捉える必要がある」としています(パブコメ結果No.6)。
保険会社は、これまで以上に、保険代理店に対するリスク評価を精緻に行う必要があるといえます。「苦情や不祥事件等の発生状況」といった問題事象が発生する前の予兆管理をいかに適切に行うかが問われることになると思われます。
(4)「日常的な教育・管理・指導」
「日常的な教育・管理・指導」の「日常的」の頻度について、金融庁は、「各保険代理店の業務特性等を踏まえ、各保険会社が判断するものと考えます」との見解を示しており(パブコメ結果No.12)、この点についても、保険会社はリスクベース・アプローチで対応する必要があると考えられます。
(5)「代理店監査等を通じて検証」
「代理店監査等を通じて検証」との点について、金融庁は、「監査等による確認・検証の頻度は、統一的なものではなく、保険代理店に対する指導等の実効性を確保する観点を踏まえた上で、保険代理店の規模や特性に応じた頻度で実施することも許容される」との見解を示し、「頻度を検討するに当たっては、苦情や不祥事件等の発生状況に加えて、保険代理店の事業規模や業務特性に照らして生じ得る各種リスクを多面的に捉える必要がある」としています(パブコメ結果No.17)。
保険会社は、代理店監査等の頻度についても、リスクベース・アプローチで検討する必要があります。
(6)「保険代理店による自己点検」
「保険代理店による自己点検」には、「日本損害保険協会の策定した「代理店業務品質に関する評価指針」に基づき保険代理店が行う自己点検が含まれる」とされています(パブコメ結果No.19)。
ただし、保険会社は、保険代理店による自己点検のみに依拠することはできず、自ら(又は専門家の支援も得ながら)保険代理店に対する点検・監査を実施することが重要となります。
(7)行政処分の可能性
監督指針Ⅱ-4-2-1(5)が新設され、保険会社による代理店指導に重大な問題があると認められる場合は、保険会社に行政処分が下される可能性がある点にも、留意が必要です。
3 保険会社の保険代理店に対する「過度の便宜供与」の防止
(1)監督指針の規定
監督指針Ⅱ-4-2-9(6)は以下のように規定し、保険代理店に対して、保険会社等に対し過度の便宜供与を求めること及び保険会社等から過度の便宜供与を受け入れることを防止するための態勢整備を求めています。
| Ⅱ-4-2-9 保険募集人の体制整備義務(法第294条の3関係) (6)二以上の所属保険会社等を有する保険募集人が、保険会社等に対して過度の便宜供与を求めることは、当該保険募集人において、便宜供与の実績に応じて特定の保険商品を推奨する事態を誘発し、顧客の適切な商品選択の機会を阻害するおそれがあるため、防止される必要がある。 そこで、二以上の所属保険会社等を有する保険募集人は、比較推奨販売を行う場合には、顧客の適切な商品選択の機会を確保する観点から、Ⅱ-4-2-12を踏まえ、保険会社等に対し過度の便宜供与を求めること及び保険会社等から過度の便宜供与を受け入れることを防止するため、自己の規模や特性に応じて、以下の措置を講じているか。 (注)一の保険会社等に専属する保険募集人であっても、専属の維持の見返り等として、保険会社等に対し過度の便宜供与を求めること及び保険会社等から過度の便宜供与を受け入れることがないよう、適切な措置を講じる必要がある。 ア.過度の便宜供与の判断基準に係る社内規則等の策定 イ.上記ア.の社内規則等を踏まえた、保険募集人による保険会社等に対する便宜供与の要求及び受入れの制限に関する適切な教育・管理・指導の実施 ウ.保険会社等からの便宜供与による自社の比較推奨販売への影響の有無に係る確認・検証 エ.上記ウ.の確認・検証結果を踏まえた、経営陣における評価・対応の検討 オ.自社の比較推奨販売への影響が生じていると認められる場合における、適切な解消措置の実施及び改善に向けた態勢整備 |
(2)過度の便宜供与の規制趣旨
上記監督指針の規定では、過度の便宜供与は、「顧客の適切な商品選択の機会を確保する観点」から規制されていますが、「過当競争の弊害を招くおそれのある過度の便宜供与」や「保険会社の健全かつ適切な業務の運営を阻害するおそれのある過度の便宜供与」についても、規制の対象となります(パブコメ結果No.21~22、55、100)。
(3)PDCAサイクルの実践
ア はじめに
監督指針Ⅱ-4-2-9(6)アは、PDCAサイクルにおける「P」、同イは「D」、同ウ・エは「C」、同オは「A」の取組みに該当します。
イ Pの取組み
「二以上の所属保険会社等を有する保険募集人」、すなわち、乗合代理店は、「過度の便宜供与の判断基準に係る社内規則等」を策定する必要があります。「過度の便宜供与の判断基準」については、監督指針Ⅱ-4-2-12(1)②の判断基準を前提にする必要があります(パブコメ結果No.26、37、40)。なお、日本損害保険協会「損害保険会社による便宜供与適正化ガイドライン(本編)」・「損害保険会社による便宜供与適正化ガイドライン(別冊)想定事例集」、生命保険協会「保険代理店等に対する便宜供与及び出向に関するガイドライン」も参考になります。
| Ⅱ-4-2-12 保険代理店等に対する便宜供与 (1)過度の便宜供与の防止 ② 過度の便宜供与に係る判断基準 保険会社が保険代理店等に対して行う便宜供与に関し、過度なものであるか否かについては、以下に基づき判断する。 ア.自社の保険商品の優先的な取扱いを誘引する便宜供与 保険代理店等に対する便宜供与のうち、以下のいずれかの要素を含むものについては、特に顧客の適切な商品選択の機会を阻害するおそれが高いことから、過度の便宜供与に該当する。 (ア)便宜供与の実績に応じて、当該保険代理店や保険募集人である保険代理店の役員又は使用人において保険契約数や保険引受シェアの調整が行われる場合 (イ)保険代理店等から保険会社に対し、物品等の販売数量の目標設定や購入数量の割当て等が行われる場合 イ.実質的に自社の保険商品の優先的な取扱いを誘引するもの 上記ア.のほか、保険代理店等に対する便宜供与が過度なものであるか否かについては、当該便宜供与の趣旨・目的のほか、価格・数量・頻度・期間及びその負担者等を総合的に勘案しつつ、当該便宜供与によって生じ得る弊害の内容・程度を考慮し、社会通念に照らして妥当であるかによって判断する。 なお、判断は個別具体的に行われるべきであるが、例えば、以下の行為については、実質的に自社の保険商品の優先的な取扱いを誘引するものとして、過度の便宜供与に該当し得る。 (ア)保険会社の役職員が、保険代理店等から、他の保険会社の購入実績との比較を提示されるなど黙示の圧力を受けたことを背景として、自社の役職員に対し、数量等の報告やとりまとめを伴う物品の購入をあっせんする行為 (イ)保険代理店等が主催するイベント等において、保険会社の役職員等が保険業と関連性の低い役務を提供する形で参加・協力する行為 (ウ)保険代理店等が主催するイベント等において、保険会社の役職員等が休日等の業務時間外に参加・協力する行為 (エ)本来は保険代理店等が負担すべき費用を保険会社が負担する行為、又は保険代理店等が自らの責任において行うべき業務に対し保険会社が役務を提供する行為 (オ)保険代理店等の求めに応じ、役務の対価としての実態がない又は保険会社若しくは保険代理店等において対価性の検証が困難な業務委託費、協賛金、商標使用料、広告費用等の金銭を拠出する行為 |
ウ Dの取組み
乗合代理店は、上記の社内規則等を踏まえ、所属募集人に対し教育・管理・指導を実施する必要があります。このような教育・管理・指導を実施した場合には、事後的にその内容を検証できるように、その記録(研修履修簿、指導履歴等)を作成することも重要です。
エ Cの取組み
乗合代理店は、保険会社等からの便宜供与による自社の比較推奨販売への影響の有無に係る確認・検証及びその確認・検証結果を踏まえた、経営陣における評価・対応の検討を行う必要があります。
例えば、「保険会社から特定の便宜供与が行われた後に、当該保険会社の保険商品のシェアが有意に増加したかを確認する」ことは、「有効な確認・検証方法の一つ」として考えられますが(パブコメ結果No.25、44)、「販売シェアは様々な要因により変動することがあり得るところ、影響の要因を検証するうえでは、便宜供与とは別の要因(新商品の発売など)も考慮するなど多角的な検証が行われる必要」があります(パブコメ結果No.25、44)。
こうした検証を実効的に行う上では、“顧客の意向及び商品絞込みの理由(推奨理由)→顧客に比較提案した商品→商品絞込みの理由(推奨理由)→申込み商品”といった流れがわかるような内容を、募集人が記録し、コンプライアンス責任者等がその内容を分析することが重要です。
オ Aの取組み
乗合代理店は、自社の比較推奨販売への影響が生じていると認められる場合には、既に講じている監督指針Ⅱ-4-2-9(6)ア~エの措置の内容を見直すなど(パブコメ結果No.46)、適切な解消措置の実施及び改善に向けた態勢整備を行う必要があります。
(4)専属代理店の対応措置
監督指針Ⅱ-4-2-9(6)(注)にあるとおり、「一の保険会社等に専属する保険募集人」、すなわち、専属代理店であっても、「専属の維持の見返り等として、保険会社等に対し過度の便宜供与を求めること及び保険会社等から過度の便宜供与を受け入れることがないよう、適切な措置を講じる必要」があります。なお、「専属の維持の見返り」に限らず、現在委託関係のない保険会社等と新たに乗り合うことの見返りとして過度の便宜供与を求め、または受け入れることも不適切です(これは乗合代理店においても同様です)(パブコメ結果No.35)。
上記の「適切な措置」について、直ちに監督指針Ⅱ-4-2-9(6)ア~オに定める措置が求められるものではなく、乗合代理店であるか専属代理店であるかによって、過度の便宜供与が問題となる状況や頻度が異なることを前提に、リスクに応じた適切な措置が求められる、とされています(パブコメ結果No.36)。前記のとおり、「保険会社の健全かつ適切な業務の運営を阻害するおそれのある過度の便宜供与」も規制されていることから、専属代理店に対するものであっても、例えば、対価性のない金銭支給等は問題視されると考えられます。専属代理店においても、このような過度の便宜供与を防止するためのPDCAサイクルの実践が求められます。
以上
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