一般財団法人 保険代理店サービス品質管理機構

2025年8月28日施行の「保険会社向けの総合的な監督指針」の改正への対応

保険を検討する方・保険代理店の方へ

2025.09.14

2025年8月28日施行の「保険会社向けの総合的な監督指針」の改正への対応
(その1)

(一財)保険代理店サービス品質管理機構 監事
認定経営革新等支援機関
のぞみ総合法律事務所
パートナー弁護士 吉田 桂公
MBA(経営修士)
CIA(公認内部監査人)CFE(公認不正検査士)

1 はじめに
 2025年8月28日に、以下の内容の「保険会社向けの総合的な監督指針」(以下「監督指針」といいます。)の改正に係るパブリックコメント結果(以下「パブコメ結果」といいます。)が公表されました。
https://www.fsa.go.jp/news/r7/hoken/20250828/20250828.html

①保険会社による保険代理店に対する指導等の実効性の確保
②保険代理店等に対する過度な便宜供与の防止
③保険代理店に対する不適切な出向の防止
④代理店手数料の算出方法適正化
⑤顧客等に関する情報管理態勢の整備
⑥政策保有株式の縮減
⑦仲立人の媒介手数料の受領方法の見直し

 今回から、この改正監督指針を踏まえた実務上の留意点について、解説します。

2 保険会社による保険代理店に対する指導等の実効性の確保について
(1)今回の改正で、以下の規定が追加・改正されました。

Ⅱ-4-2-1(4)
 保険会社においては、営業面への影響の大きさにかかわらず、保険代理店における体制整備や保険募集等の適切性について、日常的な教育・管理・指導に加え、代理店監査等を通じて検証し、課題等が認められた場合には期限を定めて改善を求めるなど、保険代理店に対する指導等が適切に行われるよう、その実効性を十分に確保しているか。
Ⅱ-4-2-1(4)③ウ
 監査等の手法として、保険代理店による自己点検のみに依拠することなく、無予告での訪問による監査等を実施できる態勢を整備しているか。
Ⅱ-4-2-1(5)
 保険会社による特定保険募集人に対する指導等の状況については、保険会社に対する深度あるヒアリング等のオフサイト・モニタリングを行うことや、必要に応じて法第128条に基づく報告を求めること、法第129条に基づく立入検査の実施を通じて把握することとする。その上で、重大な問題があると認められる場合には、法第132条に基づき行政処分を行うものとする。

(2)「保険会社」が対象
 上記規定は、「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」報告書の「損害保険会社においては、保険代理店における保険募集の適切性について、代理店監査等を通じて検証し、必要に応じて改善を求めるなど、保険代理店の規模やそれに基づく保険会社の営業面への影響の大きさにかかわらず保険代理店に対する指導等が適切に行われるよう、保険募集管理態勢を再構築し、その実効性を確保するべきである。」との記載を踏まえたものと考えられますが、監督指針では、「保険会社においては」「保険会社による」となっており、損害保険会社だけでなく生命保険会社も対象となります。

(3)「営業面への影響の大きさにかかわらず」
 「営業面への影響の大きさにかかわらず」との点について、金融庁は、「大規模な保険代理店との関係悪化による営業面への影響を懸念することなく、規模の大小を問わず、すべての保険代理店に対して、保険会社がリスクベ-スで適切な教育・管理・指導等を行うことを求めている」との見解を示し、「リスクの評価に当たっては、苦情や不祥事件等の発生状況に加えて、保険代理店の事業規模や業務特性に照らして生じ得る各種リスクを多面的に捉える必要がある」としています(パブコメ結果No.6)。
 保険会社は、これまで以上に、保険代理店に対するリスク評価を精緻に行う必要があるといえます。「苦情や不祥事件等の発生状況」といった問題事象が発生する前の予兆管理をいかに適切に行うかが問われることになると思われます。

(4)「日常的な教育・管理・指導」
 「日常的な教育・管理・指導」の「日常的」の頻度について、金融庁は、「各保険代理店の業務特性等を踏まえ、各保険会社が判断するものと考えます」との見解を示しており(パブコメ結果No.12)、この点についても、保険会社はリスクベース・アプローチで対応する必要があると考えられます。

(5)「代理店監査等を通じて検証」
 「代理店監査等を通じて検証」との点について、金融庁は、「監査等による確認・検証の頻度は、統一的なものではなく、保険代理店に対する指導等の実効性を確保する観点を踏まえた上で、保険代理店の規模や特性に応じた頻度で実施することも許容される」との見解を示し、「頻度を検討するに当たっては、苦情や不祥事件等の発生状況に加えて、保険代理店の事業規模や業務特性に照らして生じ得る各種リスクを多面的に捉える必要がある」としています(パブコメ結果No.17)。
 保険会社は、代理店監査等の頻度についても、リスクベース・アプローチで検討する必要があります。

(6)「保険代理店による自己点検」
 「保険代理店による自己点検」には、「日本損害保険協会の策定した「代理店業務品質に関する評価指針」に基づき保険代理店が行う自己点検が含まれる」とされています(パブコメ結果No.19)。
 ただし、保険会社は、保険代理店による自己点検のみに依拠することはできず、自ら(又は専門家の支援も得ながら)保険代理店に対する点検・監査を実施することが重要となります。

(7)行政処分の可能性
 監督指針Ⅱ-4-2-1(5)が新設され、保険会社による代理店指導に重大な問題があると認められる場合は、保険会社に行政処分が下される可能性がある点にも、留意が必要です。

(続く)